〜英雄のお話〜


 今は昔、語られ、創られた英雄がいた。彼のものは栄光をあび、その姿は誰の心にも残るものだった。
華々しい活躍、息を呑む力を備えたモノ。しかし誰も知らぬ、知ることは無かった。
強い光を受けるモノの傍らにあるものは、何モノをも受け入れぬ「影」だけだということを。
この場で語るのは、己を信じ。誰もがその傍らに置くことを望まぬ「影」を受け入れたモノの話。
ひとつの英雄譚、ひとつの惨劇について語ろう。


            〜 Shadow hide you (影と共にあれ)〜

 列強の国と並び立つ大きいとも小さいともいえぬ国があった。、その国はお世辞にも
「名君」と呼べる主が統治する国ではなかった。

 王の話をするならば、見るものが見れば「魔王」にでも見えるかもしれない。国を治めるということは
奇麗事ばかりではく、自国の益の為ならば他国をも侵略し、その「力」があるのならば強硬な手段で手に入れる
こともある。それが自らの平和や富につながるのならば「多少の犠牲」は払える。この国の王は、それを「普通」に
こなせるだけの、誰からも「愛され」「憎まれる」王だった。

 そんなどこにでもあるような国に一人の兵士がいた、ここでは”  ”と語ることにしよう。
”  ”は生まれは悪くなく、兵を率いる者の長の子。いうなれば貴族として世に生を受けた。
幼少の頃より、武の才は秀でており、やがては親の跡を継いで王の傍らで軍を率いるモノとなることは明白だった。
しかし、生まれの幸が災いしてか血族の権力や”  ”自身の才能を妬むものも多くいた。
”  ”の特徴をひとつ強調するのであれば「自分の力、存在」を誰よりも、信じていたことである。 
 ”  ”に必要なものは誰もが認める「功績」、「名誉」であり、自分の住む国に必要なものは「力」、他国
  に誇る「名声」であった。そんな”  ”の耳にひとつの噂が入った

”すべてを圧倒できる力と人々を惑わす「魔のモノ」がすこし離れた小村にともにあるようだ。”と。

 その村はさほど大きい村ではなく、生産力としては特筆するものは無かったため、どの国にも治めらずにいた。
治められず、ただ放置されていたのにもいくつか理由があった。それは古来からの迷信、村の近くの森には
「魔女」が棲み、それを村のものは「ある力」で抑えている。その村に手を出さぬことは近隣の領主達にとっては
古来からの暗黙の了解である、そういうふうに”  ”は先達から伝え聞いていた。
 ”  ”にとっては願っても見ない「功績」を得る好機、すぐにその話を「王」に伝えた。
「自らの国の繁栄を誰よりも望む」王は”  ”に村を「鎮圧」するのに十分な兵と、それを行うのに十分な時間を
”  ”に与えた。この瞬間に「英雄」と「とある世界の終わり」は動き始めた。

”  ”は自らの大義と正義を信じていた、
ひとつは「自分の国を守るための力を手に入れる」ということ。
ひとつは「魔のモノに魅了された村のモノを救う」ということ。

 すぐさま行動を始めた”  ”は村に数名の斥候を出した、「閉鎖的な村」・・・そのように聞いていたうえに、今は「魔のモノ」
に魅了された人間が幅をきかせていると聞く。事は慎重に運ばなければならない、未知のモノ、異形のモノを相手に
したことは無い。噂が国で広がったのは少し前のことである、ともすれば村の人間は「もう手遅れ」であるかもしれない。
すぐに斥候は「村に潜入セリ」と伝えてきた、このときからすでに違和感は感じていた、「閉鎖的」だと聞いていたのに、
よそ者をすぐに受け入れることなどあるのだろうか?やはり、慎重に動かなければならない、状況を悟られること無く
悟るのだ。


 斥候は村で生活しながら”  ”に「強大な力」と「魔のモノ」についてを報告した、
「強大な力」については事前の内容とほぼ同じで、古からつたわる「剣」であり、「悪しきもの」に渡してはならない
ということである、”  ”は「今の村」にそれをおいて置いていいものか、早めに回収すべきかもしれぬ。と今ある情報をもとに
考察した。次に「魔のモノ」については歯切れの悪い情報しか得られなかった、数人の斥候は困惑した表情を浮かべ
「あれには手を出さず、見逃すべきだ」とか「斥候で強大な力を回収し、早々に撤退するべきだ」などという事を口々に言うばかりか、
「魔のモノ」の容姿や力などについては「どこにもいない」だとか「どんな力があるとも思えない美しい娘だ」と不明瞭なものばかりだった。
 ”  ”は気づいたのだそれこそが「魔のモノの力」なのだと、人々を幻惑し自らの危険を遠ざけ、人々をあやつり人の世に溶け込むのだと
なんとも恐ろしい「魔物」であろうか、斥候達も選りすぐりの精鋭である。国には愛する者も家族もおり、中には「年頃の娘」
さえも持つ古参の者もいる。簡単に大義を見失うような者たちではないはず・・・異な存在であるにも
かかわらず見逃せなどと、放置するべきなどとは言語道断。情報では「革命」のようなことが起こり、体制が代わったという
そのときにはすでに「魔物」の影はあったというではないか!!”  ”は恐怖する自分を奮起させるため「勇気」を振り絞った、
相手は心を惑わす「魔物」である、自分も惑わされないとは限らない。だが”  ”は逃げなかった、

”強大な力を「悪しきもの」に渡してはならない。”
  「愛する人たちをまもりたい。」
”魔のモノに魅了された村を救わねばならない。”
  「皆に認められる功績を残したい。」

自分の「願い」と「大義」を胸に”  ”は自らが選び、信じる「勇者」たちに判断を伝える
「村の者達は魔のモノに心を奪われてしまった、もはや救うことなどできない。解放するのだ、悪夢から。

魔のモノは人の心を惑わせる、魔物は私が殺す、決して逃がしてはならない。それは国のため皆のためである、
力の無いものの命を奪うのはつらいだろう・・・だが私を信じて力を貸してくれ。」
”  ”は斥候に村から逃げられる道をふさぎ、すぐに火が回るように細工をし、
準備が出来次第、村にある「鐘」を鳴らし包囲している部隊に合図を送るように命令した。
斥候のものには「魔物」と接触していない人間を数人つけて送り出す、「念には念を」である。
が、「優秀」な斥候はすでに村人に危険を伝えていたようである、急がねばならない。魅了された仲間に舌打ちをする、
夜襲、皆の装備は黒に染め上げられている。素人相手に必要な装備ではない、すべては魔のモノに対してのものだ。
効果はわからないが、無いよりはましだろうと自分達の姿を確認しているとき、鐘の音が鳴る・・・合図だ。
これから「やつの世界」を終わらせる、悪夢はもう終わりだ。


 あちこちから悲鳴が上がり始め、火が放たれ紅く空が染まる。人々の目は突然訪れた暴力に自失している、魔のモノ
の影響であろうか?多くの人間がほぼ無抵抗に斃れていく、むせ返るような血の匂いにめまいを覚えながら、場違いの考えが
よぎる「まるで華のようだ、これが皆への手向けになればいい。」と。もう一つの目的を思い出す。
「強大な力」を「悪しきもの」に奪われる前に手に入れなければならない。斥候からある程度聞かされていた場所へ
「剣」を回収しに行く、「剣」は意外にも簡単に見つけられた。見た目は古びた剣で、とくに目立ったものは無かった
拍子抜けである。まさか・・・こんなもののために・・・自分は無抵抗な人間達を殺してしまったのか?
”  ”は焼き崩れた家を見渡し、離れたところを歩き、”誰か”を探す「少女」を見つけた、ああ・・・自分はあんなに年端も行かぬ
少女の家を焼き、家族を奪ったのか・・・ああ・・・この罪はどうすれば・・・そう自らの業の重さを感じようとした
そのとき「少女」のおかしさに気がつき、嗤った、一瞬でも「自分」を疑ったことを、嗤った、「正義」を疑ったことを
なるほど、これが「魔物」の力なのだろう。危うく惑わされるところだった、その「少女」にはあってはならないもの
がみえたのだ、「翼」が見えた気がした。突然村をおそわれ「魔物」も焦ったのだろう、きっと姿を変え切れなかったのだ。古の剣の近くに
いたのはコレを手に入れるためか、そうはさせぬと剣を握った瞬間、剣は身を、鈍い銀色の刀身へと姿を変えた。
一瞬戸惑ったが、これが「力」なのだろう。手に握った感触で分かる「これならやれる」と、「少女」と目が合う。
恐怖に見開かれ、大粒の涙をたたえた瞳、邪悪というには程遠い。剣を握り締め思い切り「幻想の魔物」を切り伏せる、
そのとき近くで若い男の悲鳴が聞こえた、誰かが近くで「大切な命」を奪われたのだろう。

悲鳴や呻きはやがて途絶え、
また静かな村に戻った、「魔のモノ」は斃れ平和が訪れたのだ。罪も無い人々を多く手にかけた、許されはしまい。皆が望む
平和を得るまで歩みをとめるわけにはかぬ、たとえどんなに涙をながそうとも。


小さな村の悪夢はそれで終わった、英雄は国に帰り賞賛され、その活躍は多く詩われた。


 二人の人間がこの話に対して言葉を残している
一人は宮廷の吟遊詩人

”偉大なる英雄、多くの涙を流し力を手に入れた。ああ偉大なるガスラハのため。平和のために。”

一人は名も無き流れの旅人

”愚かなる英雄、多くの血を流し名を手に入れた。罰は下される、罪も無き村人のため、リードのために。”


後者の言葉はすぐに広められることを禁止されたが、少なからず文献などには残っている。
英雄はそれから数多くの伝説を世に残し、栄光を欲しいままにしたがそれはまた別の話である。
語られたのは、己を信じ。少年がその傍らに置くことを望んだ「光」を追い求めた話。
それはもう一つの英雄譚、もう一つの惨劇の話である。


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