〜ピエロのお話:前編〜
奔り、走るよ道化ははしる。だれとも知らない笑顔のために
奔り、走るよ道化ははしる。皆に笑われ、嘲られ。
道化が舞台は近代間近、産業革命真っ盛り。空に見えるは黒煙と大小並んだ煙突並木
天道が昇りゃあ、活気に溢れ。月が昇りゃあ、色気が満ちる。
喜劇が舞台はそんな街、「価値」も分からぬ道化が一人、踊る舞台はそんな街。
男は昔から御伽噺、夢物語が好きだった。誰もが憧れる英雄譚。魂のある人形の物語。
誰もが「美しい”人間”」に見えるドレスを着て王子と結ばれるような乙女チックな話なんかも好きだった。
自分もいつか物語に語られるような事に出会って、それを解決してみんなに一目置かれる
そんな姿を夢見ていたが。育つにつれて自分を知って、現実を知った。
男はある組合、「ファミリー」と呼んだ方がしっくりと来る”営利団体”に属していた、
「人」が集まる街には「金」も集まる、それに集まる「人」がいる。世辞にもいいやつではない。
そんな男にも恋焦がれる女が一人、時々街にあられる「美しい少女」。
”少女”はいつも「同じドレス」を着て、街が”影”に沈む頃に現れる。表情はあまりなく
まるで心を持たない人形のようだけれど、誰が話しかけても「まるで何も知らぬ」ように話を
聞いて、話が終わるとかならず「笑って」くれる。街中の男達はそりゃもうメロメロだった。
男は彼女が来るたびに機会をうかがって、なんとかかんとか強引に話をしたりなんかした。
「どこに住んでるの?」 「わからない」
「君の名前は?」 「しらないわ」
「なんで夜にしか姿を見せないの?」 「”影”が私の『友達』だから、守ってくれなきゃコワイもの。」
実に意味不明、そう思うのが当然なのだが「カワイイは正義」の真理はどんな世界にも当てはまるのだ、ぜったいなのだ。
「男」は実にバカである、そんなことは気にしない。男は”少女”の気を引くためにこんな言葉を投げかける
「君が一番”欲しい”ものを手に入れて来て上げる、何でもいいから言ってみて。」
少し”少女”は考えた後。男に言葉を投げ返す
「アナタが一番”欲しい”モノ、何でもいいから持ってきて。」
一人の道化の一人舞台、望む笑顔は一人だけ。道化の踊りは始まった。
続く
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